【THE FOOL 公式通販再開のお知らせ】

在庫補充遅くなりまして大変申し訳ありません。
THE FOOL公式特典冊子付き版の通販再開しております。
(銀行振込のお知らせをお申込み頂いた方にはお知らせのメールをお送りしております)
銀行振込とコンビニ決済も利用できるようになりましたので、
何卒よろしくお願いいたします。

https://tarhs.booth.pm/items/4440


在庫切れ中のハニカムと服毒本は、5月のイベント後に再版補充する予定です。
同時期に、スパコミ発行のラバーストラップも通販開始予定です。

なるべくその時期にまとめてお求め頂けるよう、
5月スパコミで余ったFOOL特典冊子は再度通販に回す予定ですが、
万が一完売した際は、何卒ご容赦下さいませ。


【Cool-B VOL.55 SS没ネタ】

Twitterで夜、って告知したんですが、遅くなってしまって申し訳ないです。
続きからCool-B VOL.55のSS没ネタ、載せております。
いつもは全然別の話になってしまったりするんですけど、
今回のは掲載して頂いたお話の続きに当たる部分でネタバレになりそうですので、
ご注意下さいませ。


賢太郎が白峰の家に行く話。





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 春人が案内した家は、大きな一戸建てだった。
 表には「古美術白峰」という木製の看板が出ている。俺たちは庭を通り抜けて奥の玄関に向かった。庭では俺くらいの背丈の木が、白い花を咲かせていた。
「ただいまー。賢太郎来てくれたよー」
 春人が玄関のドアを開ける。どんな顔をするべきか俺は迷っていたが、聞こえてきた明るい声に毒気を抜かれた。
「わー、いらっしゃい。遠い所から、良くお越しくださって」
 玄関先に現れた婦人は、にこやかに微笑んでいた。
 春人の母親だろう。聞いていた年よりもずっと若く見える、上品な美人だった。きらきらと輝いた瞳がかわいらしい。
「津久居賢太郎さん?」
「はい」
 俺は迷って、名刺を差し出した。
「フリーライターの津久居賢太郎と申します。春人……君の同級生の兄です」
 春人君だって、と春人が笑う。俺は軽く彼を睨みつけた。
 名刺を受け取った春人の母が、嬉しそうに頬をゆるめる。
「お会いできて良かった。はるくんから、格好いい格好いいって聞いてたけど、本当に格好いい人ね」
「ちょっと、止めてよ。そんなに言ってないからね」
 赤面しながら、春人が釘を刺す。今度は俺が笑ってやる番だった。正直、悪い気はしない。
「やだわ。お母さん、もっといい服着ておけば良かった」
「普段着でも十分美人だよ。父さんは?」
「台所。朝から張り切っちゃってね」
「蕎麦打ってたの?」
「ううん、ローストビーフ。今のブームはダッチオーブンなの」
 春人に似て飽きっぽい父親らしい。用意されたスリッパを履くと、居間へと案内された。
 広い居間の長机の上には「正月かよ」という程のごちそうが並んでいた。どうやら歓迎されているらしい。
 席につこうとすると、割烹着を来た男が大皿を持ってやってきた。
「あっ、もうおいでになっちゃったの。春人の父です。どうも春人がお世話になっています。津久居さんのお話はかねがね……」
「やだ、お父さん。お皿持ったままじゃ失礼でしょう」
「ああ、そうだね。これはローストビーフです。お寿司よりもお肉が好きって聞いたからね、急遽……」
「もう、ローストビーフの紹介してどうするの」
「そうだった、そうだった」
 ひとしきり夫婦漫才が繰り広げられた後、春人の父は割烹着を脱いで、改めて俺に挨拶した。
「よく来てくれたね。まあ楽にして下さい」
「津久居です。初めまして」
 俺が名刺を差し出すと、春人の父は慌てて奥さんを振り返った。
「母さん! 僕の名刺どこやったっけ」
 再び夫婦漫才を挟んで、名刺の受け渡しが終了した。俺は彼らを観察した感想を、春人に耳打ちする。
「……おまえのおっとりした部分を詰め込んだような両親だな」
 肩をすくめて、春人も囁き返した。
「だから、緊張しなくていいって言ったでしょ。二人ともミーハーな気持ちで賢太郎に会いたがってたんだよ」
 想像より、窮屈な会合ではなかった。夫婦は始終にこにこしながら、俺に気を使って、真昼からビールを薦めた。
「遠慮せずに食べてって。お車じゃないんでしょう?」
「電車だよ。いつも賢太郎はバイクだけど……」
「こら!」
「な、なに」
 急に父親に叱られて、春人が目を丸くする。
「呼び捨てにするなんて失礼じゃないか。ちゃんと、さん付けしなさい」
「だって……」
「だってじゃない」
 春人はちらりと俺を見やった。
「今日は電車だよね、賢太郎さん」
 何故そこで津久居さんじゃないのか。吹き出しそうになる俺に、春人の父親が瓶ビールを向ける。
「良かった。じゃあ、賢さん。どうぞ一つ」
 何故そこで略すのか。
 面映いような笑いを堪えて、俺はグラスにビールを受けた。
「いただきます」
 俺の皿に山盛りに料理を取り分けながら、春人の母親が楽しげに笑う。
「いっぱい作ったからたくさん召し上がって下さい。本当、賢さんには、いつも春人の遊び相手になってくださって。ご迷惑おかけしてません?」
「いえ」
「何度も泊まらせて頂いてるんでしょう? 春人は寝たら起きないから……」
「それは多少」
「最近は起きてるよ」
 春人は親の前で見栄を張った。
「東京に帰るたび、うちに来ないで、賢さんの家に泊まってるでしょう。うちの人がやきもち妬いちゃって。誰だそいつは、連れて来い、なんて……」
「違うってば、母さん! 違うからね、賢さん。僕も学生の折、春人と同じように、年上のお兄さんにお世話になったことがあって、大変迷惑を掛けたから、これは美味しいものでもご馳走してお礼をしなくちゃと思ったんだよ」
 一息でそこまで言うと、春人の父は人が良さそうに、へらと笑った。
「でも、面白いね。僕は芸術家のお兄さんに憧れたけど、はるくんはワイルド系のお兄さんに熱を上げたわけだね」
「熱を上げるって言い方おかしくない……?」
 照れた春人が、気まずそうに顎を引く。彼の父は大袈裟に首を振って息子の意見を否定した。
「ぴったりじゃないか。電話でしょっちゅう賢さんの武勇伝を話してるし、賢さんみたいにバイク乗りたいとか、賢さんみたいに一人暮らししたいとか……」
「言ってないから! 違うからね、賢太郎」
「詳しく聞かせてもらえませんか」
 俺は身を乗り出した。赤面した春人が、ぐいぐいと俺の腕を引く。
「詳しい話なんてないよ! なんだよ、さっきまで緊張してたくせに」
「黙れ」
「ああ、本性出た」
「春人くん、お黙り下さい」
「次に変なこと言ったら、胡散臭い敬語を録音してみんなに聞かせるから」
「止めて下さい。死んでしまいます」
 俺たちのやりとりを眺めながら、彼の父は微笑ましそうだった。
「仲がいいんだねえ。でも、はるくん。お父さんも若い頃は、賢さんくらい格好良かったからね」
「え? う、うん……」
 あきれたように、奥さんが頬に手を当てた。
「また張り合って。お父さんより賢さんの方が格好いいわよ」
「張り合ってるんじゃないよ。僕だって息子に褒められたいんだよ」
「お父さんのローストビーフ超おいしいー」
 とってつけたように、春人が手料理を絶賛する。俺はいつの間にか、声を出して笑っていた。
 あたたかい、いい家族だった。手料理は驚くほど美味かったわけではないが、家庭的な優しい味がした。夫婦は仲が良く、お喋り好きで、精一杯俺をもてなしてくれた。
 他愛もない春人の話を聞いているうちに、空は夕焼け色になった。春人が何度も泊まっているのだから、君も泊まって行ったらいいと、宿泊をすすめられた。断ろうとしたが春人にも強く誘われて、仕方なく好意に甘えることにした。
「六畳の部屋にお布団をご用意すればいいかしら?」
「俺の部屋でいいでしょう。今日の賢さん外交用だから、俺と全然話してないよ。猫かぶって二人の相手してばっか」
「猫なんてかぶってませんよ、坊っちゃん」
 恥ずかしい話を散々暴露された春人は、いつもよりも子供っぽい顔で文句を言った。部屋を片付けるために春人が二階に上がると、ほろ酔いで眠たそうだった彼の父がふいに居住まいを正した。
「いやあ、今日は楽しかった。賢さんとこんなに話せて良かったよ」
 改まった空気に、来たな、と俺は思った。
「しょうもない息子だけど、貴方が大好きみたいだ。これからも息子をよろしくお願いしますね」
「それは約束できません」
 目を伏せる俺に、彼は驚いた顔をした。
「……うちの子が、迷惑だった?」
「違う。そういうわけじゃないが、ありませんが……。彼がとても大事にされていることは俺にもわかります。白峰さんの期待に応えられる自信はない。簡単に約束はできません」
 白峰夫妻は目を見合わせて、同時に破顔した。笑顔の意味がわからずに、俺は眉を顰める。
「……なんです?」
「賢さん、君は長男だろう。とてもしっかりしている。責任の意味をとても重く感じてくれる人なんだなあ」
「そんなに真面目に春人のことを考えてくれて、本当に嬉しい。優しい人なのね」
 俺は困惑して、ビールグラスを置いた。首を振って二人を説得する。
「約束は出来ないと言ったんだ。謙遜や遠慮じゃない」
「うんうん、それでいいんだ。十分だよ。僕はすっかり君のことが好きになった」
「いや……」
「私も。イケメンだし」
「それは認めますが……」
「素敵。そうだ。お風呂あがりは寒いでしょうから、羽織るもの用意しましょうね。お父さんのでいいかしらね」
 春人の母が大きめのカーディガンを持って、俺の傍にやってくる。俺が振り向く前に、背中にあてがって、にこりと笑った。
「これでいいわね」
 頷く代わりに、俺はうつむいた。
 母親のような仕草が照れ臭くて、心臓を締め付けられる。
 こんな家に俺の居場所はないと思っていた。
 眉を下げて苦笑する。好青年の振りをしたり、敬語で喋ったり、慣れないことをする自分がおかしい。
 以前なら、こんなことはしなかった。
 親と会って欲しいだなんて——ケチが付いた時点で、春人との縁は切っていた。
「賢太郎、さん。部屋の準備したよ」
 階段を駆け下りた春人が、待ち切れずに俺の腕を引く。空になった皿を片付けながら、春人の母が笑った。
「あんまり付き合わせちゃダメよ。賢さん、お疲れなんだから」
「誰が疲れさせたんだよ。男同士の時間はこれからなの」
「もう、生意気言って。ごめんなさいね、賢さん」
「いえ」
「俺の部屋だったら、猫かぶらなくていいもんね」
 いたずらっぽく春人が笑う。
 自分に懐いた無邪気な笑顔を見つめていると、よろしくお願いされてもいいか、と思えた。
 両親の愛が、少年の背負う傷が、俺の手から、あふれるものだとしても。
 優しい季節に、何度でも、返り咲けるように。
「なに? にやにやして」
「おまえの遠足事件を思い出した」
「ちょっと! その話、絶対みんなにしないでよ」
「口止め料次第だな」
 笑い合いながら、二階に続く階段を昇る。
 階下では、食器を重ねる軽やかな音と、夫婦の笑い声。スイッチの付いたテレビが夕方のニュースを伝えはじめる。
 浴槽に注がれるお湯の音。夕陽の差す窓。部屋に辿り着くまで、春人は何回も振り返って、俺に話しかける。
 俺は相槌を打つ。優しい気持ちになれた。
 こんな家に、俺も昔住んでいた。


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時系列的には掲載して頂いたSSの続きなんですけど、
このあと、この没ネタの前の部分を書き直したので、
掲載SSからこの没ネタには(賢太郎の心情的に)繋がってない部分があるかもでちょっとIFなかんじ。

白峰が難しくて毎度迷走してしまう…
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