【Cool-B VOL.48&vol.45 SS没ネタ】

結構書き直したりするのはしょっちゅうなのですが、
途中まで書いていたのが残っていたので掲載します。

和泉のはバレンタイン話にしようと思っていたらしい…
途中で終っています。


続きからどうぞ

-------------------------------------------------(その1) 

ーーメイク・ア・ドラマ。
 男子校の2月14日が灰色の平日なら、自分の手でドラマを巻き起こせばいい。
「おまえ、なんだってこんな日に、チョコなんか作ってんだよ」
 主人が不在の牧師舎のキッチンで、瞠はチョコを刻みながら文句を言った。なんだってこんな日に。
 そう、明日はバレンタインデー。
 男は決してレジにチョコを持って行っちゃいけない日。
「煉慈にあげる」
「ほーそりゃ……」
 僕の答えに、瞠はさっそく嫌な予感を感じたっぽい。
「差出人の名前には、なんて書く予定だ?」
「辻村寛子」
「おまえ、そういう嫌がらせ止めろよ……」
 寛子は煉慈を振った女の名前だ。たしかに、ちょっとやりすぎかも。
 僕はチョコの欠片をつまみながら、煉慈が動揺しそうな相手を思案した。
「白峰春人は?」
「ハルたんにその手の冗談したら、ぶっ飛ばされるぞ」
「槙原渉」
「おまえの予想以上の大混乱になるから止めろ」
「茅晃弘」
「えー!? 信じねえんじゃねえの、さすがに…」
「久保谷瞠」
「止めてよ。お付き合いすることになっちゃったら、どうするのよ」
 瞠はオネエ言葉で受け流した。たしかに、瞠からチョコが届いても、煉慈は慌てなさそう。
 僕はより大規模なハプニングを望んでいた。二枚目のチョコをかじろうとする僕の頭を叩いて、瞠がたしなめる。
「いたずらすんなよ。やるなら他人を巻き込まないで、自分でやるんだな」
「僕が差出人ってこと?」
「え?」
「たしかに。煉慈は一番ビビるかも」
 真剣に思案する僕を、ぎょっとした目で瞠が眺める。
 京都行きの旅行を決めるように、僕は頷いた。
「そうだ、煉慈に告白しよう」


[未完]
-------------------------------------------------(その2)


 キスして欲しい。
 誰か僕にキスしてくれないかな。
「それでね、バレンタインディナーを予約したんだよ。雑誌に載った店なの。そう、超オシャレ。お客さんにもらったバッグ売ったらもうけたんだー。だから、バレンタインプレゼントあげんの。へへ、奮発!」
 そう。良かったね。素敵だね。
 相づちを打つたびに僕の喉が乾いていく。溶かしたチョコレートを流し込まれたみたいに。
 クレイジーだ。こんな話を1時間も聞き続けている。
 シャーペンの芯なら、もう30本は犠牲になった。
「そう……。じゃあ、花。僕、ジュケンベンキョウするから」
「待って、聞いて! ドレスコードって何かな?」
「旦那に聞けば?」
 僕は端的に告げて、携帯を放り投げた。腹立ちは収まらずに、部屋を走って壁に跳び蹴りする。
 隣の部屋の作家が、低い声で文句を言った。
 バレンタインデー。それは去年まで僕のための日だった。
 最愛の花や、きれいな友人たちに囲まれて、キスの雨を浴びていた。
 今年だって望めば、最高の乱チキパーティが手に入る。どこにも寂しがり屋はいる。彼女たちは僕の細い手足を気に入って、朝までベッドから離さない。
 だけど、もう、そんな恋はしないと決めた。
 まともな大人になるために。
 だけど、一人のベッドで僕はぐったりしてしまう。ああ、誰か。
(誰か僕にキスして)


 その場限りでもいい。キスは人を幸せにする。
 ピエロが配るメリーゴーランドのチケットみたいに、僕は誰かにキスがしたい。甘いお菓子を口移ししたい。
 浮気はしないよ。それが運命の人ならね。
 どうか、神様。
 僕を寂しくさせないで。
 つまらない癇癪を起こしてしまうから。


「なんのメンバーだと思う?」
 自分の部屋に集めたメンツに僕は尋ねた。
 煉慈は眉を寄せて、槙原先生は瞬きをして、誠二は腕時計を確認している。
 春人だけが律儀に首をひねってくれた。
「……寒がり?」
「ハズレ。僕らは失恋したメンバー。煉慈は不倫に失敗して、先生はプロポーズを断られて、誠二は初恋の人を寝取られて、春人も彼女に振られた」
「ちょっと待ってよ……」
 不服そうな同志たちに、かまわず僕は訴えた。
「明日のバレンタインに暴動を起こそう。何かアイデアを出して。一番過激な提案を採用するから」
「ごめんね。悪いけど、俺はデートの予約アリなんだ」
 投げキスをしながら、春人がにこやかに席を立った。僕は殺気だった視線を送る。
「すぐ振られるくせに……」
「はあ!? 不吉なこと言わないでよ!」
「春人はもっとちゃんと恋愛した方がいいと思う」
「和泉に言われたくないけど!」
 反論する春人の腕を、先生と煉慈も掴んだ。
「来年受験生なんだから、大人しく勉強してた方がいいんじゃないかな…?」
「どうせ三ヶ月で終わるものを、なんでわざわざ始めるんだ?」
「ちょっと、二人まで止めてよ!」
 もめる三人を無視して、今度は誠二が席を立った。
「悪いけど、俺も行くよ。それと、さっちゃん」
「何?」
 決め台詞を言うように、誠二は傲岸不遜に顎を持ち上げた。
「ーー振ったのは、俺の方だから」
 あまりにも大人げない三十代の台詞に、僕らは赤面した。
「うわ……」
「負け惜しみ、格好悪……」
「負け惜しみじゃないってば! だいたい彼女がいつも誘ってきたし……」
「僕もおいとまします。ゆっこはツンデレだから、ぎりぎりに誘いが来ると思うんだ!」
 求婚を断られて尚、先生はポジティブだ。こういう人種が無自覚にストーカーになる。
 春人も先生も誠二も去って、後には僕と煉慈が残った。
煉慈は眉間に皺を刻んだまま、僕のベッド周りを片づけると、やがて飽きたように立ち上がった。
「じゃあな。おまえ、たまには部屋片づけろよ」
「煉慈は寂しくないの」
 煉慈が振り返る。彼は孤独な学生作家だ。
 禁断の恋をして、愛を失った。まだ若いっていうのに。
「人肌恋しくならないの」
 彼はあきれた顔をしようとして失敗した。上級生にも敬遠される強面のくせに、どこかうぶな男だから。
 しかめた瞼には羞恥がのっている。
「馬鹿馬鹿しい。俺は世間の流行に右往左往しないさ」
「僕だって。だから、右往左往してる人たちに、痛い目見させるんだ」
「それって右往左往してるんじゃねえのか…?」
「煉慈は何もわかってない」
 僕はベッドに座り込んでうなだれた。うつむく僕の顔を前髪が隠す。
 楽しい人が話す、楽しい言葉に傷つきたくない。幸福な物語にダメージを受けたくない。
 そんな人間ではいたくないんだ。
 だから、僕は楽しまなくちゃ。カレンダーを記念日で埋めて。たくさんのキスで唇を濡らして。
(誰か僕にキスして)
 僕が空っぽになる前に、ちょっとだけ愛して。
「まあ、くよくよするなよ……」
 戸惑った声を浮かべながら、煉慈が僕の隣に腰掛けた。
 ドラマで見るような仕草で、ぽんぽんと僕の肩を叩く。
「生きてりゃいいことあるさ」
「君はそれでも作家なの?」
 安っぽい慰めに僕は青筋を浮かべた。


[未完]
---------------------------------------------(その3) 


夢を見た。
 内容は覚えていないが、悲しい夢だった。



「起きろ、清史郎。遅刻するぞ」
 毎朝7時に、弟を起こす。それが俺の日課だ。
 9歳年下の清史郎は今年で高校生二年生になる。相変わらずの寝相の悪さと、寝癖のひどさで、清史郎は枕にしがみついていた。俺が買ってやった目覚まし時計は枕元で虚しく鳴り続けている。
「んー……。今日はすいかの日でやすみ……」
「勝手に祝日を作るな。ほら、起きろ。朝飯食う時間なくなるぞ」
 朝飯と言われて、ぱちっと清史郎の目が開く。先程まで夢の中にいたとは思えない、明るく透き通った瞳だ。
「ベーコンエッグしてくれた?」
「ああ」
 清史郎はここ一週間ベーコンエッグをリクエストし続けていた。作ってやらなかったのは意地悪ではなく、朝になるとつい忘れてしまっていたせいだ。
 だが、今朝は冷蔵庫中の卵に『ベーコンエッグ用の卵』とマジックで書かれていたおかげで、無事に思い出すことが出来た。
「じゃあ起きる! 兄ちゃんおはよう!」
 元気に飛び起きて、清史郎は俺の隣を走り抜けた。いつまでも子供のような奴だと俺は苦笑する。
 俺たちの両親は、清史郎が幼い頃離婚してしまった。お世辞にも家庭的とは言えない二人だったため、兄弟ばらばらになるよりはと、俺が清史郎を引き取って育てた。弟と言うより、俺の子供のようなものだろう。
 俺は26歳になり、今は都内で週刊記者をしている。専門分野は少年犯罪、青少年問題などだ。記者の仕事は忙しく、構ってやる時間も少ないが、清史郎は俺の弟とは思えないほど、真っ直ぐでのびやかに育った。
 かわいい、自慢の弟だった。
「いただきまーす!」
「今日、雨降るらしいぞ。傘持って行けよ」
 エプロンを脱ぎながら、換気扇の下で煙草を咥える。念願のベーコンエッグを頬張りながら、清史郎は眉を下げた。
「降らなかった時、失くしちゃうから嫌だな」
「どうして毎回失くすんだ。持って行けよ。高校まで遠いだろ。……それにしても、良くおまえがあんな名門校に受かったな」
 清史郎の通う高校は、指折りの進学校であり歴史ある名門校だった。合格したと聞いたときは耳を疑ったものだ。
「勉強したもん、一生懸命」
 透き通るような顔を浮かべて、清史郎はアップルジュースを飲んだ。取っ手つきのコップはプラスチック製で小さく、青い素地にピンクの象の絵が描かれている。
 笑いながら吐き出した煙が、換気扇の中に吸い込まれた。清史郎が貧乏ゆすりをしたので俺は「足」と叱る。動きを止めはしたものの、清史郎に反省した空気はなかった。
「ねえ、ねえ、兄ちゃん」
「なんだ」
「今日、変な夢見た」
「どんな?」
「兄ちゃんに手紙を書く夢。テーブルの上に山ができるくらい、たくさん書いてた」
「読むのが大変そうだな」
 俺が笑うと、清史郎は俺をじっと見つめた。
 煙草を揺らして、俺は話の続きを促す。
「それで? どんなことを書いた」
「兄ちゃんに会いたいって」
「一緒に暮らしてるのに?」
「うん。おかしいよな。でも、会いたくて、会いたくて、たまらなかったんだよ」
 あどけない瞳が、まっすぐに俺を見つめていた。
 子供の頃から清史郎は、起きたてに夢と現実を混同した。おばけが出たと言っては枕を抱えて俺の部屋にきた。今もそうだ。悲しげな弟のまなざしは、まだ夢の続きを見ている。
 俺は煙草の火を消して、清史郎のやわらかい髪を撫ぜた。
「ここにいる。早く食えよ」
「うん」
「傘は持って行けよ」
「兄ちゃん、何時頃帰ってくる?」
「週末までは遅いな。日付が変わる前には帰る。夕飯は適当に食ってくれ」
「母ちゃんみたい」
「え?」
「前はいつも兄ちゃんが作ってくれたのにさ。仕事するようになったら、兄ちゃん母ちゃんみたいだなあ」
 悪意もなく、ぼんやりと清史郎は呟いた。
 俺はかすかに罪悪感を感じた。食事も作らず仕事を優先する母親を、学生の頃の俺は内心で責めていた。
 だが、社会人になった俺は、結局同じことをしている。
「仕方ないだろ。仕事なんだから」
 無意識に俺の声は尖った。清史郎はびっくりした顔をしている。
 胸の奥が苦くなった。いつからついていたのか、テレビが臨時ニュースを伝える。
「関東地方に上陸した大型台風XX号の影響で、各地の川が増水しています。気象庁の予報によりますと、水遊びをしていた学生一名が川に流される見込みで……」
 奇妙なニュースに俺は眉をしかめた。なぜ、気象庁が死人を予報する?
 清史郎はフォークをくわえたまま、つまらなそうにニュースを見つめていた。
 無機質な青い光が、彼の頬を冷たく照らす。
「違うよ。水遊びじゃなくて、写真を撮りに行ったんだよ」
 俺は沈黙した。
 言いようのない、恐怖を感じていた。
 外では暴風雨が荒れ狂っている。風が吹くたびガタガタと部屋が揺れる。
 すさまじい轟音と同時に、稲妻が青く光った。
 ばちん、と音を立ててブレーカーが落ちる。部屋の電灯も冷蔵庫の動作音も消えた。
 テレビの画面にだけ、清史郎の顔が映っている。
「いってきまーす」
 軽やかに椅子を立って、清史郎が玄関に向かっていく。清史郎、俺は引き留めた。だが清史郎は振り返らずに、靴を履き潰す。
 恐慌したように、俺は怒鳴りつけた。
「傘を持って行けと言っただろう! 嵐の音が聞こえないのか!?」
 玄関先で、清史郎は動きを止めた。
 じっと俺を見つめている。彼の足下は水浸しだった。狭い玄関に水が浸水している。
 じわじわと透明な水は広がって、俺たちの家を浸食しようとしていた。


[未完]
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